景気回復が踊り場に差し掛かっている現在、国では中小企業の経営を支援するために多くの支援策を打ち出しています。その中でも特に創業や新たな事業活動への取り組みを支援するための新しい法律として「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律(中小企業新事業活動促進法)」が平成17年度制定されました。今回はこの法律の趣旨と支援策、特に企業の新しい取り組みを支援する「経営革新支援」について解説していきます。
新規創業や新たな事業活動への取り組みを支援する法律としては、主に創業や研究開発・事業化をすすめるベンチャー企業を支援するため「中小企業創造的活動促進法(中小創造法)」ならびに「新事業創出促進法」、中小企業の経営革新への取り組みを支援するための「経営革新支援法」の3つの法律がありました。これらの法律は支援範囲などが重複していることなどもあり、より包括的で利用しやすい形での中小企業支援のための法律として平成17年度より「中小企業新事業活動促進法(以後「新法」とします)としてまとめられました。
中小企業に対する支援内容については大きく3つに分類されます。
| 支援制度 | 支援内容 |
| 最低資本金規制の特例 | 事業を営んでいない個人が、この法律に基づいて経済産業大臣の「確認」を受けると、株式会社または有限会社を設立する際に最低資本金規制が5年間猶予される |
| 信用保証協会による信用保証 | 上限1,500万円まで無担保・無保証で信用保証が受けられる |
| 中小企業基盤整備機構による債務保証制度 | 信用保証協会の保証枠を既に全額使用しているなど、信用保証協会の信用保証制度では資金調達が困難な場合に限り利用可能 |
| 設備投資減税 | 設備投資額について、30%の特別償却もしくは7%の税額控除を選択できる |
| 留保金課税の停止 | 設立10年以内の中小同族会社について、内部留保への追加的課税の停止を受けることができる |
| エンジェル税制 | 個人投資家が、ベンチャー企業の新たに発行する株式を取得した場合、及び、その株式を譲渡する等して利益・損失が発生した場合、課税特例を受けることができる |
| 中小企業投資育成株式会社法の特例 | 中小企業投資育成株式会社に相談・申込を行い、審査を通過した場合に、設立に際して発行する株式の引受などの支援を受けることが可能 |

従来の経営革新支援法をほぼ踏襲しています。企業もしくは組合等が行う、新たな事業活動への取り組みに対する支援です(図2参照)。この支援を受けるためには国または都道府県に対して「経営革新計画」を提出し、承認をうける必要があります。

新法で新たに規定された支援対象です。複数の企業がそれぞれの強みを相互に持ち寄って新たな事業活動を目指す取り組みに対して、マーケティング活動や設備導入などに対する経費補助を行うなどの直接支援と、地元関係者や専門家、金融機関などによって構成される「新連携支援地域戦略会議(全国9か所に新たに設置されます)」により事業化までをサポートするソフト面での支援などが行われます。
実際に事業を行われている場合に最も活用範囲が広いのは【2】の経営革新支援になりますので、これについて少し詳しく解説していきます。
今日、事業を取り巻く環境は劇的に変化しています。このような環境下で生き残っていくためには、従来の事業活動にとらわれない新たな取り組みが求められます。このような新たな事業活動に取り組むことによって企業の経営状況を大きく向上させることが「経営革新」と呼ばれます。新法に基づき、国あるいは地方自治体が支援対象とする経営革新の活動としては次の4つが規定されています。

【支援の対象となる事業活動】
支援を受けようとする場合には、これらの1つ以上の活動による「経営革新計画」を作成し、図4の手続きに従って、都道府県もしくは国の担当部局に計画の承認を申請し、審査を受けて承認書の交付を受ける必要があります。
経営革新計画では4つの事業活動によって「経営の相当程度の向上」が図られる必要があります。このため、次の2つの経営数値について達成が見込まれる具体的な中期(3年〜5年)の計画であることが求められています。
経営革新計画承認申請書は所定の書式がありますが、その内容はいわゆる事業計画書(ビジネスプラン)だと思っていただければ結構です。経営革新支援の大きな特徴として、承認された計画が実際に進捗しているかどうかの調査が行なわれるという点があります。これは決して管理のためのものではなく、着実に進捗していくことで企業革新を成し遂げてもらうための動機付けだと思っていただければよいでしょう。実際に経営革新計画を成し遂げた企業と一般の中小企業との付加価値額、売上高、利益額について比較したものが図5ですが、その伸び率などの差は非常に大きいことがお分かりいただけると思います。なお、経営革新計画の承認件数は平成17年3月末時点で17,899件となっています。
| 経営革新終了企業 | 一般の中小企業 | |
| 付加価値額(または1人あたり付加価値額)3%以上向上企業割合 | 35.7% | 18.9% |
| 売上高の伸び率(一企業あたりの年平均) | 10.9% | △2.5% |
| 利益額の伸び率(一企業あたりの年平均) | 11.1% | 7.1% |

実際にはどのような取り組みを行われているかを業種ごとに示したものが図6です。この調査結果をよく見ると、経営革新に取り組む企業に2つの大きな方向性があることがわかってきます。一つは他社にない自社オリジナルな新商品や新サービスによって新たな市場を開拓していこうとする動き、もう一つは自社の生産・販売・サービス提供などの能力をより高めることによって同業他社と差別化したオンリーワン企業を目指そうとする動きだと思われます。さて、皆さんはどちらの方向を目指しますか?これを考えるためには、自社の顧客を調査・分析することからヒントが得られます。
皆さんの会社で再購買率が高いお得意様はどのようなタイプでしょうか。業種や年齢層だけでなく、事業規模や所在地、ライフスタイルや所得層などしっかりと分析してみてください。特有の傾向がありませんか?お得意様が見えてきたならば、なぜ自社を選んでくれているのかヒアリングしてみましょう。商品の機能やサービスあるいはブランドに魅力を感じてくれている場合と、商品やサービスの信頼性やアフターサービス、提供方法などに魅力を感じてくれている場合があります。顧客に支持される強みを伸ばしていく、これが成功する経営革新だと言えるでしょう。
経営革新計画が承認を受けると、以下に挙げる支援策を受けることができます。ただし、承認されたら無条件に支援が受けられるということではありません。各支援策を受けるためにはそれぞれの支援策を実施する主体による審査が別途あります。(補助金、設備投資減税ならびに留保金課税の特例については都道府県の経営革新担当もしくは最寄の経済産業局、それ以外は支援策ごとに記しました。)
【経営革新補助金】
承認を受けた経営革新計画に従って実施される、(1)市場動向等に関する調査、(2)新商品・新技術・新役務の開発、(3)販路開拓、(4)人材の養成に関する経費について、1/3(組合等の4者以上のグループによる共同計画の場合は1/2)が補助されます。
【設備投資減税】
承認を受けた企業が取得した機械装置などについて、取得価額の7%の税額控除(リースの場合はリース費用総額の6割に対して7%)または初年度30%の特別償却が認められます。対象となる設備は、取得または製作した場合には1台または1基の取得価額が280万円以上のもの、リースの場合は1台または1基のリース費用総額が370万円以上のものです。
【留保金課税の特例】
承認を受けた企業に対しては、自己資本の充実を促進するために留保金課税を停止する特例措置が講じられます。留保金課税とは同族会社が内部留保した金額に対して追加的に課税される制度です。
【経営革新融資】表1
承認を受けた企業が行う経営革新事業のための経費に対しては、政府系金融機関(国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、商工中央金庫)による低利融資が利用できます。内容に関しては表1の通りです。
この融資を受けるためには各金融機関による別途の審査が必要となります。経営革新融資は承認を受けた企業が最も多く活用する支援策です(平成17年3月末現在で14,001件、7,853億円の融資実績)。
| 中小公庫 | |||||
| 担保要件 | 担保・保証人あり | 一部担保免除(75%) | 無担保 | 無保証 | 無担保・無保証 |
| 貸付限度額 | 設備資金7億2千万円 運転資金2億5千万円 |
免除額上限8千万円 | 1企業あたり5千万円 | 設備資金7億2千万円 運転資金2億5千万円 |
1企業あたり5千万円 |
| 貸付利率 | 特利(3) | 特利(3)+中小企業の信用リスク等に応じた上乗金利 | 特利(3)+0.3% | 特利(3)+0.3%+中小企業の信用リスク等に応じた上乗金利 | |
| 商工中金 | ||||
| 担保要件 | 担保・保証人あり | 一部担保免除(75%) | 無担保 | 無保証 |
| 貸付限度額 | 設備資金7億2千万円 運転資金2億5千万円 |
免除額上限8千万円 | 設備資金7億2千万円 運転資金2億5千万円 |
|
| 貸付利率 | 特利(3) | 特利(3)+中小企業の信用リスク等に応じた上乗金利 | 特利B+0.4%+中小企業の信用リスク等に応じた上乗金利 | |
| 国民公庫 | ||
| 担保要件 | 担保・保証人あり | 無担保・第三者保証人なし |
| 貸付限度額 | 設備資金7千2百万円 運転資金4千8百万円 |
2千万円 |
| 貸付利率 | 特利(3) | 特利(3)+0.9% |
【信用保証の特例】表2
承認を受けた企業は信用保証協会による普通保険、無担保保険、特別小口保険の別枠化、ならびに新事業開拓保険の限度枠拡大が表2の通り可能です。
なお、この特例を受けるためには別途信用保証協会による審査が必要となります。信用保証の特例も承認企業が多く活用しています(平成17年3月末現在で5,525件、1,534億円の保証実績)。
表2:信用保証の特例
| 付保険限度額 | 別枠 | |||
| 普通保険 | 企業 | 2億円 |
+ |
2億円 |
| 組合 |
4億円 |
4億円 |
||
| 無担保保険 | 8,000万円 |
8,000万円 |
||
| 特別小口保険 | 1,250万円 |
1,250万円 |
||
| 付保険限度額 | 枠拡大 | |||
| 新事業開拓保険 | 企業 | 2億円 |
→ |
3億円 |
| 組合 |
4億円 |
6億円 |
【小規模設備資金の特例】
常時使用する従業員数が50人以下の小規模事業者が、経営革新事業のための設備導入を行う場合、(財)全国中小企業設備貸与機関協会による無利子での融資を受けることができます。貸付限度額は6千万円(所用資金の2/3以内)で、償還期間は7年以内(公害防止等施設は12年以内)で据置1年以内です。連帯保証人又は物的担保が求められます。
問合せは同財団に直接か都道府県の中小企業支援センターに行ってください。
【特許料減免措置】
承認を受けた企業が技術開発を行う研究開発事業によって生み出された特許の申請を行う際の、審査請求料ならびに特許料の第1年から第3年分に関して半額に軽減されます。
問合せ先は経済産業省の産業技術環境局産業技術政策課もしくは特許庁の総務部総務課になります。
【投資育成株式会社による支援】
政府系のベンチャーキャピタルともいえる投資育成株式会社による新株あるいは新株予約権ならびに新株予約権付社債などの引受により資金調達支援が行われます(資本の額が3億円を超える企業で経営革新に係る事業に要する資金調達である必要があります)。
問合せ先は中小企業投資育成株式会社になります。
【高度化融資】
承認を受けた組合等に対する支援策です。集団化等の高度化事業を実施する場合の土地・建物・構築物・設備に対して貸付割合80%、貸付期間20年以内(据置3年以内)で無利子融資が可能です。
問合せ先は中小企業基盤整備機構の地域・連携推進グループになります。
さて、経営革新支援を受けるためには承認申請書を作成する必要があります。申請書は都道府県の所定の書式(中小企業庁のWebサイトに新しい標準書式が公開されていますので参照してください)がありますが、これをいきなり作成しようとしても上手くいきません。申請書を作成するための基となる事業計画書を別途作成しましょう。
作成の手順としては次の通りです。
取り組む経営革新活動によって、どのような経営状況への到達を目標とするのかを設定します。現状の損益計算書を参考にしながら、3年後(あるいは4年後・5年後もありえますが、ここではわかりやすく3年後にしておきます)の売上高目標、総利益目標、営業利益目標、経常利益目標を「仮に」設定します。ここでわざわざ「仮に」と断わっているのは、この後の計画立案作業の結果、必ず目標数値は見直すことになるからです。
さらに、3年後の数値目標を達成するために2年後はどこまで数値が伸びていなければならないのか、1年後はどうかと年度別の仮目標を設定します。
数値目標が仮決定したら、それを達成するために年度ごとにどのような取り組みをしなければならないかを検討していきます。検討すべき取り組みは最低でも次の4つです。
| 商品やサービスの企画、設計、開発に関わる部分です。 | |
| 【生産・物流】 | 売上目標や新商品投入にあわせた生産設備や店舗の展開、仕入体制の検討、物流体制の検討などモノやサービスの生産・物流体制に関わる部分です。外注やアウトソーシングなどについても検討しておきましょう。 |
| 【マーケティング】 | 売上目標を達成するために必要とされるマーケティング体制について検討します。目標顧客数や展開地域、商品・サービスのラインナップ、市場調査活動やテストマーケティング、販売促進活動の概要、商社・代理店の構成など多岐にわたりますがしっかりと検討することが必要です。 |
| 【マネジメント】 | 取り組む活動によっては会社組織そのものを変える必要が出てくる場合も多く見受けられます。組織変更以外にも、人事制度改革、顧客管理や在庫管理の仕組みの変更、ITへの取り組みなどについても目を配ってください。 |
このようにして作られた大まかな活動計画のことを「ロードマップ」と呼びます。

【1】においてロードマップが出来上がったら、これをさらに細かな実行計画(アクションプラン)に落とし込んでいきます。図7のような形式のスケジュール表(ガント・チャートあるいは工程表と呼ばれています)で、それぞれの取り組みを、次のポイントをチェックしながら策定していきます。
この段階で往々にして【1】で考えたロードマップ通りにアクションプランが組めない状況が発生します。その際には必ずアクションプランの方を重視してください。バラ色で素晴らしいが実現困難なロードマップよりも、革新の度合が少々低くとも自社で実現可能であり、確実に前に進んでいける内容のアクションプランのほうが、はるかに意義あります。
それぞれのアクションに必要な経営資源を抽出していきます。図8を見てください。これは図7のアクションプランでの要素技術開発というアクションを例にとって、必要とされる経営資源を抽出したものです。設備関係に関しては思いつきやすいのですが、そのアクションを実行するための人材については見落としがちですので注意してください。また、必要とされる経営資源に関してはすべて金額を明確にしておきましょう。
| 個別アクション→ | 経営資源→ | 経営資源の質と量 |
| 要素技術開発 (個別アクションが必要とする 設備や人員などに分解・整理) |
開発用設備 | 検査機 1000万×1台 パソコン 30万×4台 |
| 開発用ソフト | パッケージソフト 200万 ソフトカスタマイズ費用 120万 |
|
| 特許ライセンス料 | 月額30万×6か月 | |
| 開発担当者 | 主任研究員 1名×700万/年×0.5年 設計担当者 3名×500万/年×0.5年 |
|
| 大学への委託費 | 月額12万×6か月 |
少々手間はかかりますが、アクションプランに記載されたすべての個別アクションについて、この作業を行います。この過程で当初の想定よりもヒトや資金がかかりすぎる、あるいは設備投資が多すぎるなど、計画の問題点も明らかになってきます。明らかになった問題点については代替案の検討、アクションプランの見直し、あるいはロードマップそのものの見直しなどを行って必ず解決しなければなりません。場合によっては最初に検討した年度ごとの売上目標や収益目標そのものも見直す必要が出てきます。
抽出した経営資源については、経営革新計画に関わる年度別の設備投資計画(sheet1)、要員計画(sheet2)、経費計画(sheet3)という形でまとめます。また、設備投資計画はさらに年度別の減価償却計画表(sheet4)に展開しておきます。これらの資料を参考にしながら、資金調達の計画を資金計画表としてまとめていきます(sheet5)。
ここまでの計画立案作業が完了したならば、【1】のところで仮設定した収益目標数値を修正して最終的化します。
ここまでの作業で、取り組む経営革新の実際の活動に基づいた詳細な計画書が完成しています。単に財務諸表の数値に伸び率をかけたような数字だけの内容がないものではなく、血の通った明日から取り組める活動計画書になっているはずです。経営革新計画の所定の申請書式に記載しなければいけない事項については、ここまで準備してきたものにすべて網羅されていますので、あとは必要事項を転記していけば完成します。
是非とも皆さんも経営革新への取り組みを行われ、高い成長を実現してください。