国際メンテナンスビジネス戦略と日本
第2回 企業経営に直結〜コストでなく収益基盤

はじめに

国際競争の激化および日本の社会や産業の変化に伴い、モノづくりに大きな変化が起こったと同様に、メンテナンスも大きく変化している。メンテナンス技術者の育成には20年以上かかることは常識だが、バブル経済崩壊後の非常に苦しい時期に短期の利益確保のために、多くの企業がメンテナンス技術者達をリストラしてしまった。その結果、人材不足によるメンテナンス技術力の低下と初歩的なミスによる事故が多発している。一方でIT技術の進歩を利用した効率的なメンテナンスを志向する傾向が強くなった。

ところで、誰が実際のメンテナンス業務をしているのだろうか?日本プラントメンテナンス協会の「2006年度メンテナンス実態調査」によると、日常点検は生産部門が、設備改善・保全計画・保全予算立案・評価などはメーカーのメンテナンス部門が、そして整備、特に定修・専門修理・設備診断はメンテナンス部門と外注のメンテナンス会社が担当している。

恐ろしいことにメンテナンス部門を持っていない企業も全体で16%もあるし、メンテナンス部門の人数が少ない上にスキルを持っていない人間も30%以上いる。人材教育・育成、保全技術の向上と並んで、保全とマネジメントの関係が重要視されているから、日本の経営者もメンテナンスに対する考え方を改めつつあるようだが、メンテナンス専門家の養成は非常に時間がかかる。

産学官協力で予知メンテナンス・システム構築目指す米国

同じような現象を日本よりも20年ほど前に経験した米国では、メーカーの中核事業への集中が進み、自社が行うべき業務と他社に委託する業務を峻別し、専門化が非常に進んでいった。メンテナンスこそ専門能力が大きく問われるために、自社でメンテナンス要員を抱える代わりにメンテナンス専門企業へアウトソーシングするようになった。IT技術をメンテナンスにも活用し、熟練技術者の知識や技術ノウハウを知識管理により活用する試みも行われた。

これを受けて、米国国立科学財団(National Science Foundation-NSF)が「知的メンテナンス・システム科学センター (The Center for Intelligent Maintenance Systems-IMS)」を2000年に開設し、産学官の協力による優れた予知メンテナンス・システムを作ることを目指している。このプロジェクトには多数の米国企業の他に、欧州・台湾・中国企業と並んで日本からは日立、三菱重工、オムロン、トヨタ、東芝、コマツなどが参加している。

メンテナンスは収益基盤

世界トップレベルの保険会社AIGや四大会計監査事務所では、設備の利用率や資産メンテナンスによる収益を格付けの重要な指標とすると言っている。メンテナンスをコストとして考えるのではなく、収益基盤だという考え方が広がり、API(米国石油学会)やASME(米国機械学会)などが、RBI(Risk Base Inspection), RBM (Risk Base Maintenance) , RCM (Reliability Centered Maintenance)などを標準規格として推薦している。日本でも日本石油学会(JPI)、日本高圧力技術協会(HPI)、科学工学会装置材料委員会などが、これらの手法を研究している。

メンテナンスを専門企業に任せるという選択をしている企業も多いようだが、明確なメンテナンス方針を策定した上で、具体的な作業範囲とその作業の品質測定方法を決めてから外注している企業は、どの程度あるのだろうか?また、コスト削減を目的として、あまりにも低い対価を支払う場合、メンテナンスを引き受ける下請け企業はどの程度まで責任を取れるのだろうか?

「メンテナンス理論」「共通の言葉作り」の確立が急務

日本では、米国から予防保全(Prevention Maintenance)や生産保全(Productive Maintenance)などのメンテナンス手法を学び、さらに得意の小集団活動を中心にした生産およびメンテナンス部門の全員がメンテナンスに参加するTPM(Total Productive Maintenance)が1980年代に普及した。しかし、最近ではTPMのうち全産業に共通の部分と産業ごとに専門化した部分に分けて、考え方を整理し、経営者から現場の技術者まで全員が理解できる「メンテナンス理論」と理解しやすい「共通の言葉作り」が要求されるようになった。

IMSやRBI、RBM、RCMなど外国で使われている新手法やツールは定量的なデータが取れるために、他社へメンテナンスを外注する場合に具体的な作業範囲とその作業の品質測定方法を決めるのに役立つだけでなく、自社で行う作業の品質基準を決めるのにも役立つように思われる。さらには、TPMのように生産とメンテナンスだけでなく、経営者を含む全ての関係者が理解できるメンテナンス理論を作り、更に進化した具体的なメンテナンス手法やツールを生み出すのに役立つのではないだろうか?

次回は、首都大学東京システムデザイン学部の下村芳教授に「メンテナンスの理論化と大学の役割について」を聞く。