企業にとって販売力の強化は最も重要な経営課題の一つです。このため、社員研修の分野においては営業部門を対象としたマーケティング研修が広く行われています。この研修分野では、大手の研修専門会社や人材派遣系の会社などが多数のプログラムを用意し事業展開を図っています。また、特定業界の営業経験者がそのキャリアを活かして業界向けの営業強化研修などを実施しています。これらの内容は、(1)営業という業務に対するモチベーションアップを主目的とするプログラム、(2)営業活動における販売スキルの向上を主目的とするプログラムに大別されます。
大多数が個人もしくは少人数で活動を行っている中小企業診断士がこの分野で研修を行う場合、大手研修会社のような多様かつ標準化されたカリキュラムを準備することは困難です。また、販売スキル向上についてのカリキュラムにおいても、特定業界に特化した営業系のコンサルタントと比較した場合、企業に対する訴求力の面で問題があります。では、どのような観点でマーケティング研修という分野での活動を行っていくべきなのでしょうか。
弊社では主に生産財メーカーの営業部門に向けたマーケティング研修を行っています。弊社の取組を皆さんにご紹介致します。参考にしていただければ幸いです。
ご承知のように生産財メーカーにおける営業スタイルはルートセールスが中心であり、管理指標としては売上予算に対する達成度合が重視されています。弊社がこのような企業からマーケティング研修の依頼を受ける際には、次のような事前プロセスを踏襲した上でカリキュラム作成に入って行きます。
研修を発注しようとする企業側とまずすり合わせる必要があるのが、企業側がその研修によって何に対するどのような効果を期待しているかを明確化することです。そしてそれに対して弊社側がどのような観点からカリキュラム構成を行い、どのような研修手法で対応するかについて提示することが求められます。これは双方が研修内容に対する事前合意を形成する作業です。
マーケティング研修の場合、販売スキルやモチベーションの向上を企業側の担当者は挙げてきます。しかしその裏にある真の目的は、営業活動内容の効率化と、それによって実現される売上高ならびに利益率の向上である場合がほとんどです。特に過去に研修専門会社などにおいて営業力強化をテーマとした研修を従業員に受講させたにもかかわらず、その後の成果に結びついていない企業ほど、より即効性のある研修内容を期待してきます。しかし実際にはマーケティング活動は何らかの特定のテクニックによって劇的に変化するものではなく、戦略的活動として適正にマネジメントされることによってはじめて成果が上がってくるものであることは言うまでもないでしょう。
弊社ではこの初回の打ち合わせを研修成功のカギと考えています。弊社が行う研修の主目的は個々の営業担当者のスキルアップだけではなく、営業部門全体の生産性向上であり、そのためのマーケティングならびにマネジメントに関する考え方の提供であるとご説明し、モデルプログラムなどを示しながら合意を頂くようにしています。この段階で双方の期待効果と方法論に対する理解に齟齬があると、研修に対する満足度は低いものとなってしまいます。
次の事前準備として、依頼企業の業績推移や取扱商材の内容と特性、営業部門の構成、研修受講予定者の構成などについて研修担当者からヒアリングを実施します。このヒアリング結果を持ち帰った上で当該企業が属する業界の特徴や最近の動向の情報収集と、業績面の業界平均との比較などを行い、企業が抱える課題などについて仮説を構築していきます。
次いで受講対象者である営業担当者から以下のポイントについてヒアリングを行います。
また、管理職からは次のポイントについてヒアリングを行います。
研修担当者との合意事項ならびにヒアリング結果を反映させながらカリキュラムを構成し、テキストを作成していきます。本稿では2日間で計12時間のモデルカリキュラムを、受講対象者別に2種類示します。
(A)部門管理者を含む行動管理を主体としたカリキュラム
目標達成のための担当者ごとの行動計画・管理の行い方と、営業部門全体のマネジメントポイントの設定、商談進捗管理ルールの設定を主眼とするカリキュラムです。
ルートセールスが中心の中小製造業の大多数においては、顧客管理ならびに商談管理が各営業担当者に依存し、会社全体としてはブラックボックス化しているケースが多く見受けられます。このような企業の営業部門の特徴としては次のようなものが挙げられます。
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(B)営業担当者向けの戦略立案と基本スキル習得を主体としたカリキュラム
営業活動の質的向上に必要な考え方や、提案営業に不可欠なスキルを体系的に学習するためのカリキュラムです。
このカリキュラムが適しているのは、営業部門での人員構成が少数のベテランと多数の若年層という形になっており、中堅層が不在のために世代ギャップが生じノウハウ継承が上手くいっていない企業です。マーケティングの基本的な思考法の習得と、自社商材の訴求ポイントの分析ならびに顧客のニーズアップをはかるための質問技法を組み合わせたものになっています。
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研修はどちらのタイプのカリキュラムであっても、理論等の解説と現在実際に行っている営業活動を題材としたグループディスカッション、発表ならびにロースプレイング、研修終了後に実践する具体的活動に関してのコミットという流れをとります。講師は理論解説とグループディスカッションの進行役を務めていきます。この際に特に重要であり、事前に徹底させなければならないのが、グループディスカッションのルールの規定と実際の営業活動への反映のコミットです。
グループディスカッションにおいて講師や管理職は『模範解答』の提示を行ってはいけません。提示してしまうと、解決策を発見するための思考プロセスがなくなってしまうからです。研修成果として求められているものがマーケティング活動の質的向上であるならば、発生している事象に対する原因分析や解決のための仮説の構築などについて、受講生が思考プロセスを習得しなければ実際の活動に応用できません。受講者に「考え方」や「業務への適用方法」を自ら考えてもらってこそ意義のある研修になります。
次にグループディスカッションで到達した対応策は、必ず実際の活動において実施することを宣言させる必要があります。これがなければ、単なる机上の空論に終わってしまい、研修効果が実際の活動に現れてくることはありません。
企業が中小企業診断士にマーケティング研修を依頼する場合、求められているものは何であるかを考えましょう。単にモチベーション向上を図るだけならば、研修専門会社に依頼する方が簡便です。また、特定業界での販売スキルを習得させたいならば業界経験者を講師として選定するはずです。企業が中小企業診断士に期待するものは営業テクニックなどではなく、実際のコンサルティング経験とこれに裏付けられた体系的かつ実践的な知識、そしてそれをクライアントに具体的に提供していくコンサルティング能力であるはずです。そしてこれこそが中小企業診断士の行うマーケティング研修と、研修専門会社が行うそれとの差別化された優位性となるべきです。今後、本分野での研修業務を検討されている方には、この観点から次のようなアドバイスをお送りしたいと思います。
研修は短期の個別コンサルティングである
研修業務は習得した知識や経験の開陳の場ではありません。あくまでも依頼企業の業績向上に資するものを個別にアレンジして提供すること。そして限られた時間の中でそれを組織に浸透させるための道筋をつけることが求められます。
効果の定着にはマネジメントサイクルが不可欠
研修成果が一過性のものとならないためにも、研修カリキュラムには営業部門のマネジメントサイクルへの検討を必ず含むべきです
内容の充実が次の依頼を生む
充実した研修内容は必ず顧客満足を生み出します。弊社でも研修からコンサルティング依頼へ、あるいは他社の紹介など多数発生しています。
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